ある特別養護老人ホームに暮らすおばあちゃんの話。


おばあちゃんの娘さんが施設に来られたのは1週間前のこと。娘さんから「今回の結婚式、おばあちゃんは出席しないことにしました」という言葉をもらいました。
おばあちゃんの大切なお孫さんの結婚式。娘さんとしても連れて行きたい気持ちは山々でしたが、様々な難しさを感じて断念しました。
しかし、娘さんの言葉を聞いたスタッフの心は動きました。
「なんとかしておばあちゃんを孫の結婚式に出席させてあげたい」
その日のうちに娘さんに再度連絡を取ることにしました。
「スタッフが付き添いますので、どうにか結婚式に出席できませんか?」と提案。
娘さんは静かに「そこまでしてもらわなくても大丈夫です、その気持ちだけで十分嬉しいです」と答えました。娘さんの声からは、母親のことを思い、諦めの気持ちの反面、やるせない気持ちが伝わってきました。
そこで、「サプライズで会場に連れていきませんか?」と思い切った提案しました。電話の向こうの娘さんからしばらく沈黙した後、「本当に良いんですか?」と涙声で聞き返しました。娘さんの胸の奥に眠っていた本当の気持ちが、一気に溢れ出た瞬間でした。
それから、結婚式当日に向けた準備が始まりました。
スタッフたちは、おばあちゃんがお孫さんに贈るためのプレゼントを一緒に作りました。動画が作れるスタッフは、会場でのサプライズ登場のための映像を制作しました。車椅子の動線やトイレの設備を事前にチェックするために会場にも足を運んでくれたスタッフもいました。
おばあちゃんを結婚式に参加させたいという娘さんの気持ちに寄り添い、スタッフ一人一人がその想いに共感して動きました。スタッフの思いは、「介護が必要になっても、認知症になっても、当たり前の日常を当たり前に送ってほしい」という願いでした。
おばあちゃんにとって、その日常の延長に孫の結婚式がありました。
いよいよ当日。
おばあちゃんが会場に姿を現した瞬間、驚きの声とともに会場が感動の涙と笑顔に包まれました。娘さんをはじめ、親族の方々も皆涙を流し、明るい表情で写真を撮り合っていました。
サプライズは大成功でした。
帰り際、親族の方々からは「ありがとうございました」という言葉が幾度も飛び交い感謝が絶えませんでした。介護の仕事は、介護をするだけではありません。
デザイナーのように、その人らしさを見つけていくのも、また介護の仕事だと思います。目の前にいる人がどんな状況にあっても、その人らしさを大切にしながら、新たな可能性を探っていきます。
日常の中のさりげない言葉や行動から、次のアイデアが生まれ、試行錯誤を繰り返していきます。おばあちゃんらしさに出会い、幸せを感じたサプライズとなりました。
ご家族の皆様、ご協力いがだきありがとうございました。
また、思いを一つに、積極的に動いてくれたスタッフたちに大変感謝しています。